fermented food
白みりんの製造・発酵について
みりんの材料
みりんの材料は、米※1、米麹(蒸したうるち米に麹菌を繁殖させたもの)、焼酎(またはアルコール)、の3つです。みりん醸造はアルコール(焼酎)中で米のでんぷんを糖に分解する(糖化)が進むのが特徴です。うるち米はアルコール中で老化※2しやすく、米麹の酵素の作用で分解が進みません。もち米はアルコール中でも老化せず米麹の酵素の作用で分解が進むため、みりん醸造で用いられます。
みりん醸造では、麹の良し悪しが品質を左右するため、大事な順に「一麹、二仕込み、三熟成」と言われています。
※1.酒税法の定めるみりんの定義には、「米及び米こうじに焼酎又はアルコールを加えてこしたもの。 また、これにその他政令で定めた副原料を加えてこしたもの」とあります。 「その他政令で定める副原料」とは、とうもろこし・ぶどう糖・水あめ等で、白米の2倍まで使用できることになっています。米とはうるち米やもち米を指します。
※2.でんぷんの老化とは
でんぷんに水を加えて加熱すると、糊化が始まります。それ冷却すると徐々に粘性を失い、水が遊離して表面に滲出(しんしゅつ。)してきます。このような現象をでんぷんの老化といいます。そして水が表面に滲出する現象を「離水」といいます。つまり冷却を続けることにより、離水が起きることがでんぷんの「老化現象」です。うるち米のでんぷんは、75%が「アミロペクチン」残りの25%は「アミロース」という成分で構成されています。
もち米のでんぷんは100%「アミロペクチン」です。アミロース部分は直鎖分子なのでお互いにくっつきやすく、沈殿しやすい特徴があります。その結果、アミロース同士で挟まれていた水は、押し出されて離水します。一方、もち米のでんぷんアミロペクチンは複雑な分岐構造を持っているので糊化後は老化しにくく、麹菌の酵素がより働きやすくなります。
みりんの醸造
伝統的なみりん製造では、蒸したもち米、米麹、焼酎を合わせ、醸造させます。発酵過程で化学反応が進み、麹菌の生成する酵素アミラーゼが米のデンプンに作用して、みりんの甘み成分であるブドウ糖やオリゴ糖などの糖を生成します。麹菌の生成する酵素プロテアーゼは米のタンパク質に作用して、みりんの旨味成分であるアミノ酸などの酸を生成します。みりんがただ甘いだけではないのは、醸造の過程で複数の種類の糖が生み出されること、アミノ酸由来の旨みが加わるからなのです。
糖化・熟成後、みりん醪(もろみ)を圧搾してみりん原液とみりん粕(こぼれ梅)に分け、みりん原液は、未分解のでんぷんなどを沈降させる滓下げと、ろ過の工程を経て、容器に詰めて製品となります。
コラム*みりんと日本酒の違い
みりんは製造工程で焼酎を加えるため、アルコール度数が14%あります。では、日本酒と同じなのかというと、大きな違いがあります。みりんの製造には日本酒が出来上がるまでに行われる、酵母によるアルコール発酵の過程がありません。日本酒製造においては麹菌の酵素がでんぷんを糖に変化させた後、糖を餌とする(分解する)微生物乳酸菌や酵母が活動し、乳酸発酵やアルコール発酵がおきます。
一方、みりんは蒸した米(米・もち米)と、米麴、焼酎を同時に加えて仕込むため、高濃度のアルコールの中で微生物は活動できません。日本酒のように、糖が微生物によって分解される工程がないため、糖分が残り、甘くなります。
また、みりんの糖化糖化熟成期間は日本酒の仕込みの期間に比べて長いのが特徴です。40日~60日程かけて行うのが一般的ですが、長いものでは、1年さらには10年以上と長期熟成したものもあります。
みりん醪の中で、麹菌の酵素が働き、糖類やアミノ酸が生成するのをゆっくりと待ちます。
みりんの種類
本みりんは、酒税法上「混成酒類」と呼ばれます。混成酒(醸造酒や蒸留酒を原料に植物の皮や果実、薬草、ハーブ、香辛料、甘味料、香料などを配合した酒)に分類されています。
スーパーなどのみりんコーナーのみりんは、①本みりん、②みりん風調味料(アルコールなし)③発酵調味料(食塩により不可飲処置)の3種に大別されます。
アルコールが含まれているかいないかで、調理効果には大きな違いが生まれます。
みりん7つの魅力
麹菌の酵素が生み出す自然の甘みとコク。料理を美しく引き立てる「テリ」と「ツヤ」。素材のうまみを活かした、深みのある味わいをもつ和食をまとめる、魔法の調味料「みりん」。
実は調味以外の面でも様々な役をこなします。調理のあらゆるシーンで活躍できるからこそ江戸時代から現代に至るまで長年にわたり人々に親しまれてきたのです。
お料理をする上で知っておくと便利な「みりんの調理効果」をご紹介します。
甘みを加える
みりんはグルコースを始めとする複数の糖類から成り立っています。そのためショ糖のみで構成されている砂糖に比べ、まろやかで奥深い甘みがあります。
臭みを消す
加熱調理をしてみりんのアルコールが蒸発する際、魚や肉の臭みも同時に取り除いてくれます。この効果はアルコールを含まないみりん風調味料では得られません。
調味料の染み込みがよくなる
みりんに含まれるアルコールは分子が小さいためアミノ酸・有機酸・糖類の食材への浸透が早い。
照り、つやを与える
みりんに含まれている糖類が素材の表面に膜を作り、照りやつやを出しながら余分な水分が出るのを防ぎます。
とりわけみりんの照りつや効果は調味料の中で最も優れていて、清酒と砂糖では同じようにはいきません。
コクや旨味、風味を加える
みりんに含まれるアミノ酸は、旨味を与えたり塩味や酸味を和らげたりする作用があります。有機酸や糖類による酸味、甘みも加わるほか、いろいろな成分が複雑に合わさることで深いコクが生じます。
煮崩れを防ぐ
みりんに含まれる糖類、アルコール作用の相乗効果で、煮崩れを防ぐ作用があります。
動物性食品には筋繊維の崩壊を抑制し、植物性食材ではでんぷん粒の流出を抑制します。
みりんが煮ものに使われた料理として江戸時代の料理本「万宝料理秘密箱」(1795年)に赤貝和煮(あかがいやわらかに)が紹介されています。食材に味を浸透させる、保水性を高め、柔らかくするというみりんの効果を利用していたことがわかる、興味深い資料です。
新しい魅力
白みりん独特の上品な甘みをスイーツに生かすレシピが人気を呼んでいます。
新しいスイーツは、白みりんの新たな可能性を示しています。
みりんの成分
アミノ酸
グルタミン酸、ロイシン、アスパラギン酸など
香気成分
フェルラ酸エチル、フェニル酢酸エチルなど
強い甘さのある砂糖と比べ、みりんは柔らかく複雑な甘さが特徴。砂糖はショ糖が主な成分ですが、みりんはブドウ糖ほか、オリゴ糖など多種類の糖からできているため、まろやかで複雑な甘さがあります。また旨み成分のアミノ酸、酸味や香記気成分も加わり、より深いコクのある美味しさを感じられます。大さじ1で41㎉
コラム*みりん粕(こぼれ梅)のこと
みりん粕とは、みりん醪を絞って、みりんと分解抽出するときにできる、いわば、絞りかすです。白くホロホロとした形状が、満開になった梅の花に見えたことから、別名「こぼれ梅」とも呼ばれています。
原料は、みりんと同じ、もち米と米麹と焼酎。それらを長い間、糖化発酵・熟成させてできたみりん粕には、栄養がたっぷり含まれています。成分としては、炭水化物、水分、アルコール分が約9割、残りの1割はたんぱく質や脂質などで構成されていて、糖化発酵・熟成の過程で生まれるアミノ酸やビタミンB群が豊富に含まれます。
また、胃で消化されずに腸まで届き、腸内の脂質を体外に排出してくれる役割をする、食物繊維に似た働きをするたんぱく質、「レジスタントプロテイン」が含まれていることも分かっています。
栄養満点で、もち米由来の優しい甘さがおいしい、魅力的な発酵食品です。