about shiro-mirin 白みりんのこと

白みりん

微生物が生み出す自然の甘みとコク。
料理を美しく引き立てるてりとつや。

素材のうまみを活かした、
深みのある味わいをもつ和食をまとめる、
魔法の調味料「みりん」。

みりんの原型である白みりんは、
流山の地で生まれました。

about みりんのこと

白みりんは、現在本みりんと言われるものの原型です。

みりんの起源は諸説あり、戦国時代に中国から「蜜淋(ミイリン)」という甘い酒が伝わったという中国伝来説が優勢ですが、古くから日本に存在した「練貫酒」「白酒」に腐敗防止のため焼酎が加えられてみりんになったという日本誕生説もあります。

みりんは、戦国時代は、甘いお酒として 特に女性や下戸の人(お酒が苦手な人)に飲まれていました。16世紀後半に宣教師が日本での布教活動の際に振舞っていたという記録も残っています。
甘いものが貴重だった江戸時代には、みりんに焼酎を加えて、飲みやすくした「本直し」「柳陰」と呼ばれる甘く口当たりのよいお酒が、人気を博しました。
みりんが調味料として江戸時代の料理本に登場するのは、江戸中期以降。町人文化の隆盛とともに食文化が花開く江戸時代後期(19世紀)になると、鰻のたれやそばつゆに使われだし、 調味料として活用されるようになりました。江戸時代後期の『守貞慢稿』には、関東で鰻のたれやそばつゆに「みりん」が使われていたことが記述されていることから、みりんは調味料として欠かせない存在になっていたようです。

明治から戦前にかけては、一部一般家庭での使用が始まりますが、 まだ贅沢品であり、高級料亭などで使用されることが多かったようです。 昭和30年代には本みりんの大幅減税があり、一般家庭にも普及し、和食文化を支えるわが国の代表的な調味料の一つになりました。

みりんを民俗学的な知見から見ると、不老長寿の霊薬=死を祓う薬という見方もされています。みりんに、屠蘇散(ニガヨモギやコカの葉)を混ぜ、屠蘇(とそ)と名付けてお正月に飲む習わしには、毎年死に近づいてゆく己の肉体を蘇らせる意味があると言われています。

history 白みりんの歴史

白みりんは、
流山の酒蔵のチャレンジから始まった

日本でのみりんの最初の生産は伝法村(現在の大阪府)で始まったとされ、その後、江戸時代には三河(現在の愛知県)一帯でもみりん醸造が始まり、下りものとして江戸に運ばれ人気を得ました。

みりんだけでなく清酒も下りものが人気でした。人口が爆発的に増え、食産業が発展した江戸へ、樽廻船によって、灘五郎(現在の兵庫県)など西の清酒が大量に運ばれたのです。
この状況に打撃を受けていたのが江戸周辺の酒蔵。
厳しい状況を打開しようと立ち上がったのが、二代堀切紋次郎、五代秋元三左衛門らの下総国流山(千葉県流山市)の蔵元たち。

これまでの清酒醸造で培った知識を生かして、みりん醸造の世界へ飛び込みます。しかし、ただみりんを作るだけでは、勢いに勝る上方のみりんに太刀打ちできません。そこで紋次郎らはこれまでと異なるみりん作りに挑戦していきます。

「白」へのこだわり みりんINNOVATION

当時のみりんは色が濃く濁りがありましたが、白みりんは色が淡く、綺麗に澄んでいたと言われています。また味に関しても上方のみりんが比較的淡泊だったのに対し、流山の白みりんは甘み旨みが凝縮され、濃厚かつ上品な味わい深さがありました。

より甘く、より白く。

これらを生み出すために、堀切、秋元をはじめとするみりん醸造元は切磋琢磨しながら、様々な工夫を行いました。

江戸川流域の良質なもち米の使用、精白技術の向上、熟成期間の短縮、中でも特徴的なのはろ過方法です。
「千葉県東葛群史」には、最良の羽二重を用いて、もろみをこしていたと書かれています。

羽二重とは、よりのない縦糸と横糸を使った平織りの絹織物のこと。細やかに丁寧に節取りされた歪みのない絹羽二重で濾すと、みりんの細かいおりが綺麗に取れます。このプロセスを経ることにより精度の高いろ過が可能になり、白みりんならではのキラキラと輝く美しさと透明感が生まれたのではないかと言われています。

婚礼衣装や上質な着物に使われる羽二重は、流山本町にあった呉服屋が用意したものかもしれない…と、想像の翼は広がります。

豊かな水、地の利

白みりんが誕生した背景には、江戸川という豊富な水源の存在があります。清らかな水とその水で育まれる米。このような恵まれた自然環境が、清酒造りはもちろん米が主原料となるみりん作りにおいても非常に重要であったということは言うまでもありません。

流山で醸された白みりんは、流山本町の河岸から江戸川に浮かべた高瀬舟に乗せられ、大消費地江戸へと運ばれていきました。

流山という土地自体がみりん醸造に適していたからこそ上質な白みりんの開発に成功することができたのです。

みりん醸造に適した自然環境とそこから得られる上質な原料、そして製造方法の改善、創意工夫によって、流山白みりんは誕生しました。この画期的な新商品が、食を楽しむ粋な江戸っ子たちに受け入れられ、みりんは当時確立されつつあった江戸の食文化に浸透していきます。

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18世紀後半、江戸は人口百万人を超える世界最大の都市に成長していました。男やもめが多かったこともあり、屋台が街中に登場し、気の早い江戸っ子がさっと食べられる寿司や蕎麦、うなぎ、天ぷらなどが人気となりました。それまでの塩や味噌に加えて醤油、みりん、砂糖なども使われるようになり、まさに江戸の食文化が花開こうとしていた時期、流山で白みりんが生まれたのです。

しかし、流山白みりんはすぐには受け入れられませんでした。当時は現代のように商品を認知してもらえるメディアがありませんから、宣伝が非常に難しかったのです。

馴染みのない商品だったため需要がなく、問屋が高値で販売したことがすぐに広まっていかなかった最大の原因ではないかと考えられています。

相模屋の主人である堀切文次郎は自ら白みりんを担ぎ、草履をはいて諸国に出向きました。このような地道な販売努力が徐々に実を結び、やがて商人たちに受け入れられるようになると「流山白味淋」と書かれた看板が江戸市内にて散見されるようになり、その数は年を追うごとに増えていったといいます。こうして、万事において新しいもの好きの江戸っ子たちから人気を集めるようになり、口コミによって人気に火がつきました。

ここで活きてきたのが流山の地の利です。

競合する上方みりんの産地から、江戸にみりんが届くのには何日もかかります。一方白みりんは流山本町の河岸から江戸川を下り、半日で江戸の酒問屋へと運ばれ、瞬く間に広がっていきました。こうして流山白みりんは苦節の10年を経て、江戸において「みりんと言えば流山」とまで言われるようになり、あづま名物としてその地位を確立して行ったのです。

流山みりん2大ブランド
「万上(まんじょう)」「天晴(あっぱれ)」

「万上」を開発・販売したのは二代堀切紋次郎。堀切家の祖先は源頼朝からの信頼も厚かった武将の千葉介常胤だといわれ、苗字は堀切村(東京都葛飾区)の地名に由来しています。江戸時代中期に初代堀切紋次郎が流山に移り住んで、堀切家ゆかりの相模屋の屋号で酒造りをはじめました。あずま名物として江戸で人気を博した白みりんは、その評判から宮中に献上する機会に恵まれました。紋次郎は、時の喜びを詩にしています。

「関東の誉れは これぞ一力で上なきみりん 醸すさがみや」

ここから「一力」を「万」の字に代え、「上なき」の「上」をとって「万上」としたものが、今の万上印の原点となりました。

「天晴」は五代秋元三左衛門が開発したといわれています。江戸時代前期に鶴ヶ曽根村(埼玉県八潮市)から移り住んだ初代秋元三左衛門。その子孫である四代秋元三左衛門が豆腐加工業の傍らに酒造りをはじめたのち、五代三左衛門が白みりんを手掛けました。
商標「天晴」がいつから使われたかは不明ですが、1898(明治31)年に皇族の小松宮彰仁親王が秋元家に立ち寄った際に、八代三左衛門のために「天晴」と筆をしたためたといい、その文字がラベルなどに使用されています。

高い製造技術と恵まれた環境を強みに、既存のみりんとの差別化をはかり、白いみりんを作り続けた両家は、「万上」「天晴」の2大ブランドとして、「みりんと例えば流山」の名声を築き上げた立役者と言えるでしょう。

現在万上ブランドはマンジョウ本みりんとして、流山キッコーマンに受け継がれています。

fermented food 白みりんの製造・発酵について

みりんの材料

みりんの材料は、米※1、米麹(蒸したうるち米に麹菌を繁殖させたもの)、焼酎(またはアルコール)、の3つです。みりん醸造はアルコール(焼酎)中で米のでんぷんを糖に分解する(糖化)が進むのが特徴です。うるち米はアルコール中で老化※2しやすく、米麹の酵素の作用で分解が進みません。もち米はアルコール中でも老化せず米麹の酵素の作用で分解が進むため、みりん醸造で用いられます。 みりん醸造では、麹の良し悪しが品質を左右するため、大事な順に「一麹、二仕込み、三熟成」と言われています。

※1.酒税法の定めるみりんの定義には、「米及び米こうじに焼酎又はアルコールを加えてこしたもの。 また、これにその他政令で定めた副原料を加えてこしたもの」とあります。 「その他政令で定める副原料」とは、とうもろこし・ぶどう糖・水あめ等で、白米の2倍まで使用できることになっています。米とはうるち米やもち米を指します。

※2.でんぷんの老化とは
でんぷんに水を加えて加熱すると、糊化が始まります。それ冷却すると徐々に粘性を失い、水が遊離して表面に滲出(しんしゅつ。)してきます。このような現象をでんぷんの老化といいます。そして水が表面に滲出する現象を「離水」といいます。つまり冷却を続けることにより、離水が起きることがでんぷんの「老化現象」です。うるち米のでんぷんは、75%が「アミロペクチン」残りの25%は「アミロース」という成分で構成されています。
もち米のでんぷんは100%「アミロペクチン」です。アミロース部分は直鎖分子なのでお互いにくっつきやすく、沈殿しやすい特徴があります。その結果、アミロース同士で挟まれていた水は、押し出されて離水します。一方、もち米のでんぷんアミロペクチンは複雑な分岐構造を持っているので糊化後は老化しにくく、麹菌の酵素がより働きやすくなります。

みりんの醸造

伝統的なみりん製造では、蒸したもち米、米麹、焼酎を合わせ、醸造させます。発酵過程で化学反応が進み、麹菌の生成する酵素アミラーゼが米のデンプンに作用して、みりんの甘み成分であるブドウ糖やオリゴ糖などの糖を生成します。麹菌の生成する酵素プロテアーゼは米のタンパク質に作用して、みりんの旨味成分であるアミノ酸などの酸を生成します。みりんがただ甘いだけではないのは、醸造の過程で複数の種類の糖が生み出されること、アミノ酸由来の旨みが加わるからなのです。

糖化・熟成後、みりん醪(もろみ)を圧搾してみりん原液とみりん粕(こぼれ梅)に分け、みりん原液は、未分解のでんぷんなどを沈降させる滓下げと、ろ過の工程を経て、容器に詰めて製品となります。

コラム*みりんと日本酒の違い

みりんは製造工程で焼酎を加えるため、アルコール度数が14%あります。では、日本酒と同じなのかというと、大きな違いがあります。みりんの製造には日本酒が出来上がるまでに行われる、酵母によるアルコール発酵の過程がありません。日本酒製造においては麹菌の酵素がでんぷんを糖に変化させた後、糖を餌とする(分解する)微生物乳酸菌や酵母が活動し、乳酸発酵やアルコール発酵がおきます。

一方、みりんは蒸した米(米・もち米)と、米麴、焼酎を同時に加えて仕込むため、高濃度のアルコールの中で微生物は活動できません。日本酒のように、糖が微生物によって分解される工程がないため、糖分が残り、甘くなります。

また、みりんの糖化糖化熟成期間は日本酒の仕込みの期間に比べて長いのが特徴です。40日~60日程かけて行うのが一般的ですが、長いものでは、1年さらには10年以上と長期熟成したものもあります。
みりん醪の中で、麹菌の酵素が働き、糖類やアミノ酸が生成するのをゆっくりと待ちます。

みりんの種類

本みりんは、酒税法上「混成酒類」と呼ばれます。混成酒(醸造酒や蒸留酒を原料に植物の皮や果実、薬草、ハーブ、香辛料、甘味料、香料などを配合した酒)に分類されています。

スーパーなどのみりんコーナーのみりんは、①本みりん、②みりん風調味料(アルコールなし)③発酵調味料(食塩により不可飲処置)の3種に大別されます。

区分 本みりん みりん類似調味料
みりん風調味料 アルコール発酵調味料
原料・製法 米(もち)、米こうじ、焼酎
(醸造アルコール)、
糖類などを糖化、熟成
糖類、米、米こうじ、調味料、
酸味料などを混合
米、米こうじ、果実、砂糖類、
アルコール、食塩などを
発酵、混合
アルコール分 14% 1%未満 10%前後
塩分 無塩 無塩 2%
酒税法上の注意 酒類 非酒類 非酒類

アルコールが含まれているかいないかで、調理効果には大きな違いが生まれます。

みりん7つの魅力

麹菌の酵素が生み出す自然の甘みとコク。料理を美しく引き立てる「テリ」と「ツヤ」。素材のうまみを活かした、深みのある味わいをもつ和食をまとめる、魔法の調味料「みりん」。

実は調味以外の面でも様々な役をこなします。調理のあらゆるシーンで活躍できるからこそ江戸時代から現代に至るまで長年にわたり人々に親しまれてきたのです。

お料理をする上で知っておくと便利な「みりんの調理効果」をご紹介します。

上品な甘味 臭み防止 味をしみこませる 「テリ」と「ツヤ」 深いコクとうま味 煮崩れ防止 新しい魅力

甘みを加える

みりんはグルコースを始めとする複数の糖類から成り立っています。そのためショ糖のみで構成されている砂糖に比べ、まろやかで奥深い甘みがあります。

臭みを消す

加熱調理をしてみりんのアルコールが蒸発する際、魚や肉の臭みも同時に取り除いてくれます。この効果はアルコールを含まないみりん風調味料では得られません。

調味料の染み込みがよくなる

みりんに含まれるアルコールは分子が小さいためアミノ酸・有機酸・糖類の食材への浸透が早い。

照り、つやを与える

みりんに含まれている糖類が素材の表面に膜を作り、照りやつやを出しながら余分な水分が出るのを防ぎます。
とりわけみりんの照りつや効果は調味料の中で最も優れていて、清酒と砂糖では同じようにはいきません。

コクや旨味、風味を加える

みりんに含まれるアミノ酸は、旨味を与えたり塩味や酸味を和らげたりする作用があります。有機酸や糖類による酸味、甘みも加わるほか、いろいろな成分が複雑に合わさることで深いコクが生じます。

煮崩れを防ぐ

みりんに含まれる糖類、アルコール作用の相乗効果で、煮崩れを防ぐ作用があります。
動物性食品には筋繊維の崩壊を抑制し、植物性食材ではでんぷん粒の流出を抑制します。
みりんが煮ものに使われた料理として江戸時代の料理本「万宝料理秘密箱」(1795年)に赤貝和煮(あかがいやわらかに)が紹介されています。食材に味を浸透させる、保水性を高め、柔らかくするというみりんの効果を利用していたことがわかる、興味深い資料です。

新しい魅力

白みりん独特の上品な甘みをスイーツに生かすレシピが人気を呼んでいます。
新しいスイーツは、白みりんの新たな可能性を示しています。

みりんの成分

糖分

グルコース、イソマルトース、オリゴ糖など

アミノ酸

グルタミン酸、ロイシン、アスパラギン酸など

有機酸

乳酸、クエン酸、ピログルタミン酸など

香気成分

フェルラ酸エチル、フェニル酢酸エチルなど

強い甘さのある砂糖と比べ、みりんは柔らかく複雑な甘さが特徴。砂糖はショ糖が主な成分ですが、みりんはブドウ糖ほか、オリゴ糖など多種類の糖からできているため、まろやかで複雑な甘さがあります。また旨み成分のアミノ酸、酸味や香記気成分も加わり、より深いコクのある美味しさを感じられます。大さじ1で41㎉

コラム*みりん粕(こぼれ梅)のこと

みりん粕とは、みりん醪を絞って、みりんと分解抽出するときにできる、いわば、絞りかすです。白くホロホロとした形状が、満開になった梅の花に見えたことから、別名「こぼれ梅」とも呼ばれています。

原料は、みりんと同じ、もち米と米麹と焼酎。それらを長い間、糖化発酵・熟成させてできたみりん粕には、栄養がたっぷり含まれています。成分としては、炭水化物、水分、アルコール分が約9割、残りの1割はたんぱく質や脂質などで構成されていて、糖化発酵・熟成の過程で生まれるアミノ酸やビタミンB群が豊富に含まれます。

また、胃で消化されずに腸まで届き、腸内の脂質を体外に排出してくれる役割をする、食物繊維に似た働きをするたんぱく質、「レジスタントプロテイン」が含まれていることも分かっています。

栄養満点で、もち米由来の優しい甘さがおいしい、魅力的な発酵食品です。